風の言葉 – 62

魔女狩り、再び……

先日、某新聞のトップに、「医療現場でのホメオパシーの自粛を……」と呼びかけた日本学術会議の報告記事があったけど、見た人いるかなあ?
一般の人は、ホメオパシーという耳慣れない言葉をどう感じたんだろう? それとも、僕が知らないだけで、ホメオパシーは社会認知語なのか?

ホメオパシーの発見は1796年、今から300年以上もの昔に遡る。東ドイツのマイセンという町医者だったクリスチャン・サミュエル・ハーネマンさんが考案した同種療法のこと。 例えば、インカのペルーに伝わるキナの木の皮は、マラリアと同じ症状を引き起こす。それを煎じて飲ませれば、マラリアが治るという。毒は毒を制す、と言うように、毒に対して毒をぶつける感じと言えば理解できるだろうか?
ホメオパシーは、同じ症状を引き起こす物質を自然界から見つけ出し、それを何百倍にも希釈したものを砂糖に染みこませたレメディを処方する技術として発展してきた。
そして、医療現場で活躍する医師達の中にもホメオパシーを処方、あるいは西洋医学と併用する人が増えてきていたという。

その背景には、アトピーなど現代医療では根治不可能な病気(?)が続出し、多くの人が他の方法はないものか?(医者自身も含め) と躍起になって探した事があげられる。また、度々起きる医療ミスの為に、不信感のようなものが人々の中に芽生えたという事も考えられるかもしれない。

さて、その記事は、「ホメオパシーには医学的根拠がないから、医療現場での使用を自粛すべき」という主旨だった。
真意はわからない。ホメオパシー協会がネット上で公開している某新聞記者とのやり取りの記録を見ると、意図的な作為も感じられる。果たして、その公開記録の真意も定かではないけれど……。
 
……それから何日かして、今度は、タレントのアグネスチャンのブログで扱うパワーストーンが医療行為まがいの誇大広告であり、一種の霊感商法だという批判が雑誌等で扱われた。

偶然? いや、しかし……。
僕は、その一連の流れに「現代の魔女狩り」的なファシズムを感じてしまった。
モノゴトの真意を科学的に、論理的に探求することなく、人々の恐怖感をあおり立てて石を投げさせるような気配、とでも言えば良いだろうか?


大マスコミによるマインドコントロール。
……昔、某新聞にコラムを連載していた時に出逢った大新聞のベテラン記者から「新聞には、本当の事と本当ではない事が書かれてあるから、人々はその真意を自分の目と耳で確かめなくてはならない。けれど、それがその時代の持つエネルギーなんだ」と言われた事を思い出す。
では、時代の流れとは何だろう?
ある有識者は、肥大化を続け、国家予算まで圧迫してしまう現代医療に限界が来ている証拠だと言う。
別の評論家は、インチキな新興宗教による霊感療法や迷信的な民間療法に科学のメスが入り始めた兆しだとも言う。

どちらが正しいのか? たぶん、どちらも正しく、どちらも間違っているのだろう。
歴史はいつもそんなものだ。モノゴトは陰陽の螺旋で動いていく。

例えば、テレビの「龍馬伝」でも観られるように、幕末の頃、尊皇攘夷を叫ぶ志士達と幕府の間には避けがたい軋轢(あつれき)と変遷があった。
日本全国に攘夷(外国を打ち滅ぼせ)の嵐が吹き荒れると、その反動として、幕府の保守的政策と志士達への弾圧が生まれた。
しかし、その弾圧が強くなればなるほど、さらにその反動として薩長連合が生まれ、倒幕という動きに変わっていった。
つまり、ひとつの支配的世界が終焉を迎える時、その前には必ずと言っていいほど、反動が起きる。断末魔のような弾圧の風潮。しかし、それはさらに時代を加速させるものとなるのだ。
歴史がそれを証明している。

ならば、今のこの盲目的な魔女狩りのように見える非難は、NEXTの時代の幕開けなのか?
夜明けの前の闇がもっとも暗いように……。

そして、夜明けの混沌は、いつも「本当に大切なこと」を見えにくくさせてしまう。

さて、僕は、特にホメオパシーの擁護者(ようごしゃ)ではない。また、西洋医学の批判者でもない。世間にある代替医療や民間療法。食事療法の類も、ひととおり知り、その効果を認めつつも、西洋医学の迅速(じんそく)な対応にも敬意を払っている。

要は、「いいとこ取り」をして何が悪い? と思う一人である。
しかし、この某新聞の記事の展開は、魔女狩りを彷彿させる。キリスト教が他の全ての信仰を邪教だとして排斥した暗黒の歴史を。
西洋医学教とも言うべき宗教が、信仰の自由を弾圧しているように映るのだ。

くだんの大新聞の記者に「新聞をどのように見ていますか?」と聞かれた当時、僕が答えのは、「距離を持って眺めているだけです」だった。
その姿勢は今も変わらない。むしろ、さらに距離が開いたように思う。すべての世界に対して。
遥か上空からの鳥のような俯瞰(ふかん)の視点。何が起こっているのか? 何が正しいのか? この意図や目的は何だろう? と。
今、それを人々に持ってほしいと強く願う。
 
それが、良い距離を持つことである。すべてにおいて。そして、自分自身の感情に対して……。

……まもなく、90度に曲がってしまった世界が、陰陽の常として、視界に入ってくるよ。


2010年9月2日(木)猛暑。 
沖縄では台風が荒れ狂っているらしいけど、東京は暑い日々が続いている。
雨もずいぶんと降っていない。
今年の初め、「いったい何が起こるのですか?」と聞いてきた人がいたけれど、
もう世界各地で起こっているでしょ。