風の言葉 – 29

洗脳 

僕が、「精神世界ビジネス」を嫌うワケ

……むかーし、昔、ある所に、有能な精神科医がおりましたとさ。

彼は、自分の所に来る分裂症とかの患者さんが、衝動的に自殺してしまうのを何とか止めたいと考えておりました。
抗精神薬など、いろいろと薬を処方し、試してみたのですが、一時的に効果は上げられても、薬が切れるとまた同じ心配の繰り返し。
「自分で、自分を責めてしまう」、「自己否定にはまってしまう」、「すぐに自己嫌悪をする」という“癖”をなんとかできないものかと考えたのです。

あるとき、患者さん自身に、「自分と向き合っても自己否定しなくて済む」論理的帰納法みたいな「言葉のテクニック」を用いる方法を思いつきました。
それは、「自己否定している自分は、本当の自分じゃない」という自己否定の自己否定みたいなテクニックだったのです。

自分の生きてきた過程を振り返らせて、「あの時、こう感じたのは、果たして本当の自分だったのだろうか?」と分析させて、自分を否定してしまう癖は、どこから来ているのか?を自らに探らせるテクニックを考えついたのです。もともと、モノゴトを深く考えすぎてしまうのが、分裂症の人たちの特徴ですから、その思考法は、「自分を否定する」習慣にいくらか効果を上げたのです。

彼の生み出したテクニックは、仲間の精神科医にも伝わり、彼らが抱えていた精神病の患者のサポートに大いに役立つようになりました。

そんなある日、一人の精神科医が、「これって、精神を病んだ人たちには効果的だけど、一般の普通の人にはどうなんだろう?」と疑問を投げかけました。
そして、何人かの「普通の人」に試してみたのです。
すると、どうでしょう。多くの人が一様に、「希望が見えてきた」、「クヨクヨしなくなった」、「自分だと思っていたものが、自分じゃなかった。そのことで救われた!」と、言い出したのです。
だって、普通の人だって、仕事や家庭で、さまざまなストレスを抱えて生きています。悩んだり、落ち込んだりもします。答えが見つからなくて、苦しんでいたりもしますから、「言葉のテクニック」にすがりつきたくなりますよね。

たとえば、「一週間」、あるいは「百日間」、自分のなりたいビジョンを続けてみなさい、というプログラムは、子どものセラピーとして考案された「箱庭療法」という、自分の心の中を箱庭を造っていくことで客観的に見つめる療法をヒントに生まれたものでした。たいてい、一週間は同じビジョンは持ち続けられませんよね。まして、百日なんて誰だってムリです。でも、それで、良いのです。達成できないプログラムを敢えて続けさせることで、自分の関心事を「達成」に向けさせることに意義があるからです。それをしている自分をポジティブな自分だと認めてあげる?、結果よりも、そのプロセスに意味がある! そういうことでしょうか。

さて、その実験が成功したことで、「これは、もしかしたら、ビジネスになるかも?」と考えた人たちがいました。
精神病と呼ばれる患者さんに対してのハートフルなケアですから、普通の人たちの「悩んでいる人生」に対する良い処方箋になると考えたのでしょう。
でも、最初の発想が、「愛」などではなく、「お金儲け」だったことが、問題なのですが……。1980年代の頃です。

そして、当時、流行していたヨガやインド哲学などがテクニックの中に取り入れられ、次第に、シャーマニックなもの、超能力やオカルト的なものまで、プログラムに取り入れられるようになりました。それが後に、アメリカから発した「ニューエイジ」と呼ばれる社会的ムーブメントとなった走りでした。占い板からストーン・パワー等のグッズまで、幾つもビジネス商品が揃えられました。ロサンゼルスには、「菩提樹」という、「ニューエイジ専門の本屋」まで現れました。

日本から留学? していた人たちの中で、アメリカのニューエイジ産業に目を付けた人たちは、自らそのプログラムを履修することで、日本でもビジネスをと考えたようです。もちろん、「愛」ではなく、「お金儲け」ですよ。発生が、「お金儲け」だったものは、どこまでいっても「お金儲け」なのですね。
もっとも、その事自体を責めるつもりは毛頭ありません。ただ、「愛です」と言いながら、高額な金を要求したり、お金を持っていない人を相手にしない、その姿勢がキライなだけです。

ハリウッド女優シャーリー・マックレーンが書いた『アウト・オン・ア・リム』(自分の現実は、自分の心が造っている、ということをさまざまな霊媒と呼ばれる人達との接触で気づいた、ような中身)の大ヒットから、「チャネリング」という言葉が一般?に浸透し始めました。
もともと、シャーリー・マックレーンは、アメリカの眠れる予言者エと云われたドガー・ケイシーの信奉者でもあったのですが、雨後のタケノコのように現れ始めたチャネラー(シャネラーじゃないですよ)には、本当は辟易していたようです。
記憶にあるでしょうか? バシャールとか名乗った、「未知とのコンタクトをする者」と呼ばれる人達の本が幾つか出版されましたよね。結局、彼らは、感応していたわけでもなんでもなく、自己暗示で催眠状態になり、どこかで読んだ知識を、さも未知の空間から降ろしてきたように話していただけなのですが。一種の自己顕示欲の変形だったわけです。
日本でも、バシャールのチャネリング公開実験に参加した人の中で、「もっとワクワクすることをしなさい」と言われ、実際に会社を辞めてしまって、途方に暮れた人たちが何人もいました。彼らが現実にかえって、気づいたときには、無責任なチャネラー達はアメリカに帰った後でしたが。
ケビン・ライアソン、ジャック・パーセル(ラザリスを召喚?)、ダリル・アンカ(バシャールを召喚?)、J・Zナイト(ラムザを召喚?)……。
今、その当時に活躍? した人たちで残っている人が何人いるのでしょうね。


現在は、天使とコンタクトする人、イルカとコンタクトする人、自ら神を名乗る人、宇宙人であると告白する人、とバラエティに富んでます。ヒーリングのテクニックを伝授すると言って、宇宙と自分の関係を再構築するという人も出てきました。そして、そういった怪しげな事は言わなくても、「思考をコントロールするセミナー」を開いている人たちもたくさんいます。ビジネスマンが、自らのストレスを解消するために、「セミナー」に通う時代ですから。
企業が高いお金を払ってわざわざ有能?な社員を送り込む、ハーバードビジネススクールやオックスフォードのセミナーでも、「自己実現」という大義名分で、精神療法に近い、暗示を与えたり、エリート意識を植え付けたりしていますです、ハイ。

けれども、本質的なものは、何も変わってはいません。相変わらずの「金儲け」です。残念なのは、受けている人たちが皆純粋な人たちばかりだと言うことです。
僕は、オカルト的なもの、超能力的なもの、宇宙とのコンタクト的なもの、それらは、「遊び」でするなら構わないと伝えてきたつもりです。本気になったら、友人や家族と離れてしまうから、と。

そのプログラムを受け続けている間は、自分を「好きでいられる」、でも、そのプログラムを受け続けていないと「不安になる」ものって、多いのだと思います。それって、ドラックと似ていませんか?

人の弱みにつけこんで……、すべての精神世界のビジネスがそうだというわけではありませんが、聞いている限り、とても多いように思います。もっとも、ダマす方よりも、何度も形を変えたプログラムに参加して、「いい加減、自己憐憫の癖から脱出して、気づけよ!」と、思う人たちの方が多いので、もっと、やりきれませんが……。
 
と、言うことで、僕は、精神世界やニューエイジがキライなのですよ。エッヘン。
……それと、以前に、ある集まりがあったときに、いかにもその関係者の方たちから、「次の御本はいつ出ますか? いつも話すネタにさせていただいているので……」と言われたこともありました。あんまり、あからさまに言うので、かえって、スッキリしましたが。
もしかしたら、僕の本、関係者の方がちゃんと読んでるかも……、いや、それはないな。読んでたら、そんなビジネスできないもの……ブツブツ。


2008年6月14日 梅雨なのに、晴れた日の方が多い。これって……。