今週のお言葉 – 35

ょっと素敵な一日!
先日、ある引っ越しのお手伝いをした。
それは、僕がときおり参加している、翠ケ丘教会の日曜日の礼拝の後でのことだった。
I牧師から「来週の火曜日、引っ越しの手伝いをしてくださる人を募集しています。女手は何人か集まったのですが、男手が足りません」とお話があった。
そして、何故か、私の方を見るのだった。
帰り際に、「加納さん、火曜日ご都合どうですか?」と聞かれたときには、「箸より重いモノを持ったことはないので」と、断れる雰囲気ではなかった。
ところが、火曜日になって、体調が著しく悪くなっていた。前日の夜から38度強の原因不明の高熱が出て、苦しんでいた。
最初はカゼかな? と思ったのだが、どうもそうではないらしい。喉も痛まなければ、身体のどこかが変なわけでもなかった。
毎週、月曜日は何も食べない「断食デー」の日にしているので、食べ物による中毒などではないはずだった。
それとも、昼間プールで500メートルほど泳いだり、歩いたりしたから、身体が異様に活性化して、高熱を持ったのか? とも思った。
さらに、当日は朝から雨で寒く、外気は3度もなかった。
よりによって、引っ越しの当日に雨とは! 昨日まで晴れていたし、天気予報では水曜日からまた晴れる予定だった。
思わず、教会に電話をしていた。
「あの、今日、雨ですが、引っ越しってあるんですよね」
電話の向こうから元気な声が返ってきた。
「はい、今日はよろしくお願いします!」
出かける用意をしようと立ち上がると、電話がなった。
建築家のOさんからだった。
「もしもし、今、横浜なんだけど、打ち合わせが長引きそうで、今日の引っ越し手伝えそうにないんだ。悪いけど、よろしくね」
『おれだってなあー……』と、心の中で声がした。
集合場所の教会に着くと、雨足はますます強くなっていた。
教会には、私の他に、ホームレスを救援しているボランティアグループ木曜パトロールのF女史とピアノの調律師をしているJ君、そして、その友人のG君がいた。
後は、牛乳屋のIさんが引っ越し用のトラックを用意して来るのを待つだけだった。
そんな中……、
「えっ、今日は牧師も来られないの?」
「別件で、出ているそうです」
そんな会話が飛び込んできた。
「……そうか、まあ、これで男手は僕を入れて4人いるから大丈夫か。それより、女手は集まったと言ってけど、女手の方がいないじゃん」
雨の中、引っ越しの用のトラックと2台の車が、目的地のアパートに向かった。
車の中で、ふと聞いてみた。
「ねえ、今日の引っ越しする人って誰?」
「さあ……?」
どうやら、誰も知らないらしい。
アパートに着くと、三〇代くらいの女の人が、二階から手を振った。
あっ、お手伝いの人か、ごくろうさま、と、思ったら、その人の引っ越しだった。
高熱で少しもうろうとしながら、ドライバーで洗濯機のホースを外しつつ、ふと思った。
なんで、こんなに荷物が多いんだろう。
……それよりも、この人はいったい誰なんだろう?
それから、I牧師も引っ越しに駆けつけてきた。
我々は、きっともくもくと働いたに違いない。
気が付くと、2トントラックの荷台がいっぱいになっていた。
そして、次の引っ越し先に移動したときには、雨が上がりかけていた。
行く道よりも帰り道の方が時間が速く感じるように、引っ越しも新しい家に荷物を移す方が速かった。
「どうも、今日はありがとうございました」
耳が少し不自由だと言う、その女性はぺこりと頭を下げて微笑んだ。
とても、嬉しそうだった。
結局、その人の名前も、どういう人なのかも何も知らないままに引っ越しは終わった。
きっと、I牧師は知っていたのだろうと思う。
夜、友人に引っ越しの話をしたら、「で、誰の?」と聞かれて、「誰のだろう?」と答えて笑ってしまった。
そして、なんだか不思議な気持ちに満たされた。
いつもながら、教会の人たちのボランティア精神は凄いなと思った。
キリスト者は、相手が何様であろうとなかろうと、困っている人を見たら、無言で手を差し伸べる。
そんなことが当たり前になっている社会、日常にありそうでなかなか無い世界。
熱があって、雨が冷たくて、荷物が重くて、階段がしんどくて辛かったけど、ちょっと素敵な一日だったように思う!
★追伸 後日、聞いたお話です。
この女性、Iさんは、藤沢の教会の近くに住んでいた時、健康を害して働けなくなり、このままでは自分もホームレスになってしまうという不安に襲われたそうです。そんな時、本屋で『ホームレスを救援する100の方法』を見つけ、藤沢市のボランティアグループに連絡し、助かったのだそうです。なんだか、二重の意味で「嬉しい」出来事でした。