お告げ – 40

1000のコラムを持つ男……     


昔、メキシコに、“仮面貴族”として名を馳せた有名レスラーがいた。
その名をミル・マスカラス、人呼んで、「千の顔を持つ男」。
ロープの対角線を端から端まで、10メートル以上の距離をひとっ跳びで飛ぶ男。
飛びながら十字に組んだ腕で、相手の喉元にぶつかっていく必殺技フライング・クロス・チョップで葬られたレスラーは数知れない。
アブドーラ・ザ・ブッチャーしかり、ドリー・ファンク・ジュニアしかり、ジャイアント馬場もその洗礼を受けた一人だった。(なんか懐かしい名前ばかり出ていますが)

じつは、ワシもミル・マスカラスの大ファンだった。
プロレスショップで売っていたマスカラスの仮面を買って、そっと、人知れずかぶっていたこともある。

そんなワシが、な、なんと! ミル・マスカラスに近い存在になっていたとは!

……事件は、一月ほど前のことだった。
ワシのとても数少ないファンの一人から、「婆羅門さん、加納さんとタッグ組まれて、コラム相当な数を書かれていますよね」、というご指摘があったのである。
ワシは、ちょっとムッとした。『だから、どうなんじゃい? 誰か連載の仕事でもくれるんかい? ヘタなコラムも数打ちゃ、当たるってか?(ううっ、神さますいません……)』と、
思ったが、もちろん、口には出さず、「ハイ、小さな事からコツコツと、の精神でやってきましたから」と答えた。

それで、ワシも自分でもどのくらいのコラムを書いてきたのか? と、家にある雑誌や新聞等をひっくり返して調べてみたのである。

すると、な、な、な、な、な、なんとお! 
1000ほどもあるではないか!
何とも言えない興奮のオレンジ色のオーラがワシを包んだ。
ワシって、もしかして、すごい?!
 
ワシは、こんな伝説を思い出していた。「一晩で巨大になった男」の話である。

……ある家に一人の男の子が寝ていた。
暑い、寝苦しい夜じゃった。
うとうと、とはするのだが、目が覚めてしまう。なかなか寝付けなかった。
その時、ボーンと低い音が鳴った。壁の時計だった。見ると夜中の2時を指していた。
ふと、気が付くと、隣に寝ていたはずの父親がいない。
階下で、何かが蠢いているような物音がする。
男の子は、眠い目をこすりながら、ゆっくりと階段を下りていた。
暗がりの中に誰かがいた。
男の子の父親だった。 
父親は、台所の隅でうずくまり、誰かと電話でこそこそとしゃべっているようだった。
男の子は疑問に思った。
「こんな夜中になぜ?」
男の子の気配に気づいたのか、父親が振り返った。
その父親の顔は、今まで、男の子が見たこともないものだった。
涙と興奮で、赤く染まっていたのだ。
父親は、ゆっくりと言葉を噛みきるように言った。
「マサル、お母さんに男の子が産まれたぞ」
電話は病院からのものだった。
男の子は、静かにつぶやいた。
「兄弟になった」
きょーだいになった。キョーダイになった。弟が生まれて、一晩で兄弟になった。……一晩で巨大になった。

すいません、またやってしまいました。もうしません!

1996年に『人生を変えるヒント4』が出た時、すでに東京中日スポーツの連載は630回になっていた。
あれから、『愛ダス』や『本当の自分を見つける方法』、などを書き続け、また、雑誌に幾つか連載したモノや最近の『夢わたり』を含めると、いつの間にか1000になっていたのである。

ということは、ワシは、「千のコラムを持つ男」、ミル・コラムラスなのか!

これは、ひょっとしたら、ものすごいことなのではないか? と、思った。
もしかしたら、人に自慢できる、いや、自慢しまくってもいいような出来事ではないのか?
ワシは一人でだんだんと興奮してしまい、思わず母親に電話していた。
「あんなあ、おかあちゃん、ワシやけどな。ワシなあ、ワシなあ、コラム書き続けて、とうとう1000になってしもうたんや!」
母親は、ワシの言葉を黙って聞いていた。
共に感動してくれているのか?
母親は、この忙しいのにと言いながら、答えてくれた。
「それよか、あんたちゃんと食べていってんのか? ミヤコ(ワシの妹の名前ダス)は、あんたが食べられんようになって家に戻ってくるのを一番恐れているんやからな」
ワシは、涙が出た。肉親というものはほんま、ありがたい! いつでも、ワシの心配をしてくれる!
て、いうか、違うだろうが!(ビシッ! と、ツッコミの音)
ワシはそのために微食にしたんじゃ。これなら、食べられんでも平気やから。
て、それも違うだろ!(ビシッ!)

そんなことではなく、ワシは、ただ、純粋にワシの事を褒めてやりたかったんじゃよ。 
よくぞ、1000回も神さまの通路となれたな、と。

かつて、ワシの好きだった作家の星新一さんが、1000のSFショートショートを書かれていた。
少年ジャンプの人気マンガ『こちら亀有公園前派出所』は、とっくの昔に1000回を超えている。
有名なシェラザード姫の「千夜一夜ものがたり」。
世界の記録の中で、1000というのは大した数字でもないのかもしれん。
けれども、神さまの通路となって、コラムを1000書かせてもらったのは、自分では誇りに思いたいのだ。
すぐに魔の誘惑に乗りそうになるこのワシが!である。
  
これからは、胸を張って「どうもー、千のコラムを持つ男、カノウマコトです。これからは、ミル・コラムラスって呼んでください!」
そう言いながら、名刺を差し出そうかしら。
それとも、孔雀のような羽の付いた仮面でもかぶろうかしら……。


龍は、千年待って天に昇る。
人は、千回転生して、やっと真実の愛を知る。
宇宙は千の千乗で、拡がっている。

千里の道も一歩から、これからも頑張りますので、応援してくだされ! よろしくね。