お告げ – 66

本物研究家
「目立たない本物」と、「よく目立つニセもの」、
そして、「目立たないけど、ニセもの」
世の中は二極化に向かっているという。
お金持ちとビンボー人、高級品と激安品、本物とニセもの。
人々の消費の形態もどんどん変化してきた。
「ロハス」(LOHAS-ロハス、ローハス。Lifestyles of Health and Sustainability -人間と地球の両方の健康を維持するためのライフスタイルの略)という言葉が流行ると、誰もかもロハスを使いたがる。ロハスヨガとか、ロハスランチ、ロハスハウス、ロハス化粧品など、まったく……節操もない。今に、「ロハス駄菓子店、山田屋」なんてのが生まれるかもしれない。
どこかの広告代理店が、消費を拡大させるために生み出したマーケティング用語、そんなものに、私たちが振り回されてしまうのは、私たちが「本物」と触れてこなかったせいだ。
まあ、無理もないが……。西洋式の食生活こそ、栄養学的にも正しいと信じ込まされて、ご飯と漬け物とみそ汁の食生活を追いやってきた私たちに、本当に健康に良かったのは、前の純日本スタイルの食事です、と今更言われても困ってしまう。
今はまだ、「朝ご飯を食べよう」と言っているけれど、「朝ご飯は身体に悪い」と云われる日も来るかもしれない。身体の内蔵機能が目覚めてないのに、無理矢理働かせて消化させる事の弊害が一般に知られる日が。
「癒す」や「オーラ」という言葉が流行ると、どこにでも溢れてくる。
消費を促進しての社会だから、流行に乗ることが大事で、そのことの本質を突き詰めて、そこから生まれて来るものを大事に育てていくという発想がない。ガマンもない。
だから、ラーメンブームの時も、時流に便乗したニセ者はいっぱい出た。
困るのは、ニセ者は荒稼ぎをしておいて、次のブームを仕掛けたいから、新しいキーワードを広告代理店やテレビ局に考えさせる。今まで地道に本物追求をやってきた人は、ブームが去ったことでほっとしているにちがいないが。
さて、「ニセ者ほどよく目立つ」という言葉がある。えてして、本物は目立たない。表にあまり出たがらないからだ。しかし、中には、「目立たないけど、ニセもの」というのがある。
これが結構やっかいだ。
先日も、東西線のある駅近くにできた、雑穀の店という定食屋に入ってみた。
店の作りは、目立たないがなかなかいい。全体的に木造りで、壁の幾つかに、明かり取りの色窓がはめ込んである。丸い大きな木のテーブルに木の椅子、天井まで木の板がはめ込まれて、ゆるやかな曲線を構成している。シュタイナーハウスのような印象を受ける。
「ほほう、これは期待できるかも……」と思った。
「野菜の味噌マリネ定食」を頼んだ(メニューはそれしかなかったのだが)。みそ汁とサラダが付いて、800円だった。ドンブリ飯に味噌で和えた季節の野菜が乗っただけのシンプルなもの。見た目は、とてもおしゃれとは言い難い。ふと、私の脳裏に不吉なものがよぎった。那須の家庭的な宿……、いったい、何のキーワードなのか!
一口ほうばった時、「これは家庭的な味の方と違って、家庭の味やな」と、デジャ・ブーのように何かの記憶が蘇った。がっかりした。
なんでも、その店は「水にこだわっている」らしい。ポスターに「湧き水」の文字が見えたので聞いてみると、「いえ、水道水を元から浄化する装置を付けているので、湧き水みたいな感じ」とのお答えがかえってきた。
人間とは、現金なものである。
本物っぽい雰囲気に喜んでいた分、肝心の料理やこだわっている事の薄っぺらさがわかると、かえって、その店の何もかもが余計に嘘っぽく見えたりしてしまう。
それなら、「身体に悪いけど、うまい!」と宣伝する化学調味料や添加物たっぷりの普通のレストランの方が潔(いさぎよ)い。
なぜなら、客は、「わかって」入ってきているからだ。
しかあし、一番許せないのは、雰囲気に騙されて「本物がわからない」客が多いことだ。
昔、ラーメンブームの時に、汚い店構えの中に本物が隠れているとまことしやかな噂が流れたとき、多くの者は、「ただ単に汚いだけの店」のラーメンを「うまい、さすがだ!」ともてはやした。だから、ブームが去ると、その店には誰も寄りつかなくなった。
「文化は、先駆者ではなく、消費者が育てる」という言葉がある(すんません、たった今、作りました)。
本物だ、ニセ者だと騒ぐ前に、自分が「本物」を知っているのかどうか、いつも気をつけていたい。
最後に幸福屋から一言。
毎日新聞に、水木しげるの「ゲゲゲの妖怪そっくりさんコンテスト」がどこかの県で開かれたとのニュースが載っていた。優勝したのは、「妖怪あかなめ」というお風呂の垢を舐める妖怪にそっくりな女の子だった。他にも「子泣きじじい」そっくりのコスプレ親父が写っていた。その写真を見たとき、「ワシは、この星では無理なんじゃないか……」とため息が出た。親や親戚は、妖怪そっくりの身内がいて、嬉しいんだろうか?……あっ、嬉しいかもしんない。