お告げ – 144

……予言者
「ちょっと、ご隠居はん えろう大変な事が起きましたなあ」
「おお、久しぶりやの。二ヶ月も更新もせんといきなりやの」
とある午後の昼下がり、お馴染みの貧乏長屋で、慌てもんのキイコが物知りのご隠居の処にいきおいよく飛び込んできましたが。
「まあまあ、そういう細かいことは、まっ、置いといて。あれ、何ですのん? ロシアに隕石が墜ちましたけど」
「おう、おまえも見てたんか? テレビで大気圏突入する前から映し出されてたからの」
「あれ、なんで迎撃ミサイルかなんかで撃ち落とさんかったんでしょうねえ。ロシアもアメリカも敵の核ミサイルはすべて落とします! て豪語してましたのに」
「まっ、そう言うてやんなさんな。ロシア側もまさか隕石一つであないな大事件になるなんて思ってもみんかったやろから」
ご隠居は好々爺のようすで、ぐいっと熱いお茶を飲み、皿に盛ったタクアンを一つ取ると口に放り込んだ。
バリバリとその年にしては元気な噛み音がちょうど良い間を作り、キイコの機先を制したが。
「まっ、なんやな。あれがもし核ミサイルやったら、終わってたな」
「ほんまでっせ。なんでも重量は1万トン、爆発の威力は広島原爆の20倍とか言うてましたから」
「ほうー、おまはん勉強熱心やな。ニュースを見てるか! ホームページ更新の仕事はさぼるくせになあ」
「それは言いっこなし! で、結局、あれは宇宙からの脅威は防げない!ってことですかね?」
キイコも喉が渇いたのか、自分で湯飲みを出してきてお茶をついで、ごくんと一息に。
「ほれ、昔、アルマゲドンとかいう映画があったの覚えてるか? 宇宙から巨大な小惑星が地球にぶつかってくるというストーリーの」
「ああ、日曜劇場かなんかで観ましたわ。ロケットで小惑星に乗り込んで、穴空けて、核爆弾埋め込んで爆破するやつでっしゃろ。
あれ、めっちゃ感動しましたなあ。ロケットに乗り込んだ石油掘りの専門家らが、結局、みんなを守るための犠牲になって……」
「……あれ、ほんまの話やったらどうする? 今回墜ちた隕石はもっと大きなモノが破壊されたあとのカケラやったら……」
「ええっ! ほんまでっか? そしたら、なんですか、アルマゲドンの映画みたいなロシアやアメリカのチームが人知れず小惑星衝突の脅威から護ってたということですか?」
キイコは興奮したのか、タクアンをいっきに3つ口に放り込んだ。ご隠居に劣らず噛みくだく音がバリバリと響く。
と、おもわずむせてゲホゲホと。
「ほれ、喉につかえるやろ。お茶飲みなはれ。ミッション・インポッシブルやあるまいし、今の地球の科学力や軍事力で小惑星どうにかは出来んと思うよ。まあ、人間に出来るもんやないやろな。
地球に墜ちてきた隕石ひとつ、どうもならんのやさかいな」
「ほたら、誰が?」
「知らんがな、そんなん。それに、ほんまやったらどうする? って儂も仮定の話やがな。墜ちたんも隕石や、いや違う、宇宙人の円盤や、とか、どっかの人工衛星やと、政府が隠し事をしてる、とかいろいろ言われたり」
「えっ、宇宙船? そんな噂も流れてるんでっか?」
「いや、やったら面白いやろな、と」
「なんですかあ、全部、仮定の話でっか。真面目に聞いて損したわ。あほらし」
キイコ、急に醒めたように、ふてくされるが。
「おまえ、知ってるか? 昔、中世フランスのノストラダムスという人が、空から恐怖の大王が降りてくると予言したんやが」
「恐怖の大王? うちは今日、お麩の味噌汁でしたけど。恐怖の味噌汁って」
「しょうもないダジャレ言うてる場合やないで。空から墜ちてくる……、ノストラダムスはんが予言した年には起こらんかったけど……。今回の隕石観てたら、それを思い出した人もおるんとちゃうかな」
「予言者ですか? その人」
「ああ、そうや。中世で流行った黒死病ペストをくい止めた人やそうや。予言者は、いつの時代も人から嫌われる。なんでかわかるか?」
「なんでやろ?」
謎めいたご隠居の言葉に、キイコ考えこむが。
「楽しい予言がないからや。人が滅びるような怖い話が多い」
「そら、悪趣味やな」
「いや、そうやない。予言は外すためにあるんや。未来にそうならんように、と願いを込めて言うのんや」
「……悪い未来を変えるために」
キイコ、神妙な顔で黙り込むが。
「だいたい隕石の軌道を変えて地球にぶつからんようにしていたのは月やという話や。かぐや姫はんが住んではるからな。それが今回は地球にぶつかった。なんや、儂には警告してんのとちゃうかな、と思えるんやけど」
「月が隕石を防ぐ! やっぱりご隠居は物知りでんなあ。で、警告って、何の警告でっか?」
「そら、わからん。わからんけど、地球の今の様子を見てたら、人間が自ら最終戦争に突入したがってるように思う人もいるわな。北朝鮮の核実験や、中国、韓国の領土問題やいうて」
「ロシアも北方領土の問題が解決しまへんな」
「せやろ。銀河宇宙自体が進化しようかと言うてる矢先に、まだ人間は争いを止められん。それを、ええかげんにしなさい! 言うて宇宙からツッコミ入れたんと違うかな」
「えらいツッコミでんな。なんでやねん! どころやありまへんで」
「せやから、わしらは隕石が墜ちたことを真摯に受けとめなあかんのとちゃうかな」
……ご隠居とキイコの話はまだまだ続くようですが、まずはこれまで。
えっ? オチがない?
はい、もうこれ以上、墜ちないように。へい、おあとがよろしいようで。
2013年2年28日
梅は咲いたか? 桜はまだかいな。
まだまだお寒い日が続きます。皆さん、お身体お大事に。