お告げ – 11

「チカンはアカン!」 

大阪魂は死なず! 

アホな広告に命をかけた者たち・・・

久しぶりに大阪に行って来た。
 

ほとんど毎日、ケツネウロン(キツネうどん)も食べたし、お好み焼きも食った。
 

それじゃ、もうたっぷり大阪を満喫しただろうと言うだろうが、そうでもない。 
 

食べ物の街、大阪。食い倒れの街、大阪。だが、それは、ほんとの大阪ではない。それはまだ「大阪」の入口にすぎないのだ。
 

ふと、乗った地下鉄のホームで、こんな広告が目に付いた。


 「チカンはアカン!」 
 

ポスターには、さらにこうあった。「チカンは犯罪やねんで!チカンはアカンがな」なんとストレートな広告であるか! 

わかりやすい。頭ごなしに「この犯罪者め!」と射すくめる冷たさがない。犯罪に走ってしまう心の弱き者の、すぐ隣りに座って語り聞かせる熱いものさえ感じさせるコピーではないか!

東京には、こんな広告はない。「チカンは犯罪です」と、逃げ場のない文句しか出てこない。それでは、犯人に更正のチャンスを与えることも出来ないような気がする。
 

「そうか、チカンはアカンかったんか……」と。
大阪には、こんな広告が町中で堂々と存在するのだ。これがほんとの大阪である。


さて、みなさんは、「どじょうすくい饅頭」の広告をご存知だろうか?
 

フランス人による、全編フランス語だけの男女の恋愛的ムードの中で、「どじょうすくい饅頭を食いたい」というドラマが進行していくコマーシャルである。ただでさえ、フランス人は「ジュブドレ、アシテー」とか、「ジュブジュブ……」と、呪いのドロ人形に命を吹き込むようにしゃべる。その彼らが、「どじょうすくい饅頭」と連発すると、それだけが、呪文のように頭に焼き付けられていくという仕組みだ。
 

そのコマーシャルは、数年前に作られ、それなりにヒットした。
 

そのコマーシャルを作った会社も大阪にある。 
 

関西CMプロダクションの雄、「そうぞー」、その歴史は古い。どのくらい古いのかというと、任天堂がまだ今のようにピカチュウのメーカーではなく、ヒゲのおっさんのマークのついた「花札」を作っていた時代からあったくらいに古い。


そこの名プロデューサー、石やん氏は私の高校時代の同窓生でもあるが、数年の間、私と一緒に広告を作っていた。
 

そんな彼が制作した「米びつ先生」というコマーシャル。セラミックの中にショウガ、トウガラシなどの虫が嫌う成分を焼き付けた物だという。
 ヒゲの生えたオカマが、エプロンをつけて、おむすびを握りながら腰を振って唄う、というものだった。
 

「米びつ先生でお釜が当たる……」


そのCMは、大ヒットして、北海道から沖縄まで流れたらしい。 

いつのまに?
 

また、セールスマンが訪ねてきて、インターフォンごしに「お父さん、いる?」と聞いたら、石やん氏の娘が「いらん!」と答えたことから、ラジオCMにもなったとも聞かされた。
 

そんな彼から、私もよく知っている、電○のクリエーターのI氏が関西の某電力会社に出した原子力発電推進のコマーシャルのアイデアを聞いた。
 「社長が、気持ちよさそうに透明な水の中で泳いでいる。カメラが引くと、なんとそれは、原子炉の冷却水の中だった」
 「社長が、豪華な部屋で一人静かにウィスキーの水割りを飲んでいる。そして一言。『私は、毎晩、原子炉の冷却水割りですよ』と、豪快に笑うのだという」
 この二案で、I氏はその某電力会社に出入り禁止になったという。
 
 

私は、深い感慨にとらわれた。
 

大阪人の、大阪人たる由縁である。
 

強い者に巻かれろ、ではない。「権力もびんぼーも笑ろたらええやん」という心意気である。
 

人類が大阪人から学ぶことは多い。
 

世の中が暗くなっても、「笑うたら、ええんや! なんとかなるがな。一本いっとく?」と生きていきたい。