お告げ – 71

幸せは、丸かぶり寿司の向こうに
「あけまして、おめっとうさん」
「はい、ご隠居さん、あけましておめでとうございます」
「誰が、インコやねん!」
元旦の朝、わしは「火の用心」の拍子木を打ちながら、未来を透視していた。ほんの3000年ほど先を。
「……うーむ、むむむむむ」
しかし、なんにも見えんかった。
能力の衰えを感じざるを得なかった。
大晦日に食べすぎた、ベビースターラーメン、麻婆豆腐味のせいか。
まあ、よいわ。わしは、過去は振り返れない男だった。
モットーは、「三歩歩けば、恩を忘れる」である。
世の中が異常気象とか、「イチ・キュ・パー」と騒いでいる時にこそ、わしは平静を保って、孤独の中に「魂」を磨くことにしているのだ。
さて、最近、気になっているのが、2月3日「節分の日」に人類に仕掛けられた、「恵方巻き」である。
いつの頃からか、街角で見かけるようになった。
節分の夜に、その年の「恵方(今年は、北北西)」を向いて、巻き寿司にかぶりつくのである。
そうすれば、「福」が付くのだという。ただし、食べ終わるまで、「無言」でいなければならないという。
しかし、想像してみてほしい。それが、いかにアホな姿であるか! 父ちゃんも母ちゃんも一家揃って、黙って寿司にかぶりつく……。
わしの鋭すぎる第六感が、そこに陰謀を感じ取ったとしても不思議ではあるまい。
「うんちく」を調べてみた。すると……、
『もともとは、江戸時代末期から明治時代初期にかけて、大阪・船場の商人が商売繁盛の祈願をしたことから。 『鬼に金棒』の金棒に見立て、節分の豆まきで追い出した鬼が落としていった金棒を体に取り入れる事で、無病息災・商売繁盛など、自身や自身を取り巻く環境に対し、抵抗増大や窮地打破などの意味合いがもたれたとされる。また、豊臣秀吉の家臣・堀尾吉晴が、節分の前日に巻き寿司を食べて出陣し、戦いに大勝利を収めたという故事に由来するという説もある』
ふんふん、なるほろ……。しかあし、わしはダマされへんぞ!
これは、大阪のお寿司さんが「世界平和」を祈願して、「六根清浄!」と叫んで、滝に打たれながら開発した食べ物にちがいないのだ。
なぜか、凡人にはわかり得ぬだろうが、わしにはわかりすぎるくらい、わかるのである。
鍵は、黙って寿司にかぶりついている、おマヌケな姿にあった。
「マヌケ」は、「魔抜け」を意味する。つまり、悪霊に憑依されて苦しむ現代人から「魔を祓って」いるのである。
人類が、皆、「お魔ヌケ」になれば、争いや戦争もなくなる。そうなれば、地球もいかに癒されることか。
特に、大阪人は、昔から悪霊に好かれる。
それで、まず地元から、救おうと、「恵方巻き」を流行らせたのに違いないのだ。
「……ああ、ここにも、世界の平和の為に戦っている者たちがいたのか!」
わしは、全国のコンビニにまで浸透した彼らの戦略に、秘かな拍手を送ったのだった。
最後に幸福屋から一言。
今年こそ、良い年にしようではないか。少なくとも、去年よりは、「多く笑える」年に。
でも、恵方巻きは、一人一本よ。欲張っちゃダメ。