風の言葉 – 52

本当の事って……

……その医師は、じっと腕組みをして考え込んでいるようだった。
「……あの、先生、どこか悪いのでしょうか?」
患者はおそる恐る聞いた。
医者の態度から、もしかして、自分はとんでもない病気にかかったのではないかと心配になったのだろう。

「うむー、手遅れかもしれないな……」
医師は、ぽつりとそれだけ言った。
それが、患者をますます恐怖させた。
「先生! 覚悟はしています。どうぞ、本当の事を言ってください!」
患者の訴えるような言葉に、しかし、医師は素っ気なく言った。
「……言っても、たぶんムダでしょう」
患者はますます恐怖して、
「いや、出来ることは何でもします。隠さないで教えてください!」と言った。

医師は、患者の目をじっと見つめると、重い口を開いた。
「あなたは、どうやら“本当の事を知りたくない病”にかかっていらっしゃいます」
「……」
沈黙のあと、患者は「ハアッ」とだけつぶやいた。


……宇宙人ジョージは思う。
この地球(ホシ)には、嘘が蔓延(まんえん)している。
曰く、『水を飲むと身体を冷やす』、『牛乳は骨を強くする』、『夏のスタミナ対策には、肉食がいい』、『白砂糖は脳を強くする』……、数え上げたらキリがない。
そして、世の中のホントはたいていその逆だったりする。

けれど、人は、どうしてなのか自ら嘘を積極的に信じたがる。
テレビの番組に、雑誌の幸運のペンダントに、新聞の編集された報道に「信仰」の対象を求める……。
行列のできたお店でわざわざ並び、結果的に“行列のできるお店”を作ってあげるほど親切だ。

そして、この星の人間は必ず、
「えーっ! 何で言ってくれないのー」と口では言うけれど、いざ、“本当のこと”を伝えようとすると、石地蔵のようにピタリと耳と心を閉ざしてしまう。
『なんでだ?』
ジョージの観察によると、多くの人は、「本当の事を知りたくない病」に罹っているらしい。

本当の事を知れば、今までのように気楽(?)に生きられないからなのか?
それとも、何も信じられなくなることが怖いのか?

おそらく、どっちもだろう。
いずれにせよ、この星の人間は、他人への嘘よりは、自らに嘘をつきたがる。そして、その嘘の中で安眠したいのだ。

……と、言うことは、どこかで“ホントの事”をキャッチしていて、だからこそ、目を背けたくなるのではないか?

変わってしまう自分を怖れて、
……変わってしまう周りを恐れて。

嗚呼、この素晴らしくも敏感で、鈍感な人類に乾杯!


2009年6月27日 晴れ。
マイケル・ジャクソンの早すぎる死、すべてのニュースがこぞって書き立てた。
その陰で、ファラ・フォーセットの死も小さく報じられていた。
『チャーリーズ・エンジェル』から30年近くも経っていたなんて……。
自分の思い出と共にあった時間が消えていく。
それを時代の流れだとか、無常だとかの陳腐な言葉で表現するつもりは毛頭ないが、人が「どのように死んだのか?」は、「どう生きたのか?」とほとんど同じ意味を持っていることに迫られる。
自分なら、どのように人生の幕を閉じたいのか? 今は、年齢は関係が無くなってきている。
早くとも遅くとも、どれほどの密度で生き抜いたか? それを自らに問いたい。その時は……。

お待たせしました! 7月7日より、霊化の最大の山場が来ます。すべての人類の額の第三の目に光が注ぎ込まれるそうです。そして、……内緒。