お告げ – 46

広告研究家
……その人は、道路に立っていた。
車の通りの結構激しい、京都から奈良に向かう国道24号線。
その人は、赤いポールをバトンのように振り回しながら立っていた……。
最初は、台の上に乗った広告の看板か、空気で伸び上がる人形かと思った。
なぜなら、その人のわきを車がびゅんびゅんと飛ばして行っていたからだ。
危ない! 常識的に考えれば、「とてもあり得ない」。
だが、その人は、笑顔で立っていたのである。
しかも、両の手に持った赤いポールでドラムを叩くように上下させ、その後、腰をくいっとひねって赤いポールを横に揃えたのである。
食い入るように見ていた僕の頭には、往年のアイドルスター、太川陽介の「ルイルイ」という名曲が思わず浮かんでくるほどの、見事なリズム感とパフォーマンスであった。
おお、これこそ天の啓示か! 通り過ぎるすべてのドライバーは、そう思ったにちがいない。
……その人のポールが指した方向には、“ハラが減ったら昼めしや!”と、「めし屋」が建っていたからである。
大阪に来ている。そう、日本人の血中濃度の平均を上げている大阪人の居留区(ナワバリ)に遊びに来ているのだ。
いや、正確には遊びなどではない。ワシが書きたいと願っている、「ものすごいもの」の取材のために関西に来ているのだ。
イタリアのフィレンツェ、アッシジ、ローマ、屋久島と回ってきたワシが、招かれるようにして来た、京都や明日香に残る巨石文明の跡、そして、太閤秀吉が愛用したという金のおまる……。
すべては、「ワシの、ワシによる、ワシのためのインスピレーション」のために、である。
ワシのように「お筆先」で書く作家でも、時には、下調べを行うこともある。飛び込んできた情報が、本当にあったことなのか、どうか、自分でも納得しかねるときに、調べられるだけ調べてみるのである。もっとも、地上の誰も知らない情報など、調べようがないことも多いが。
それでも、実際にその地を歩いてみたりと、小さな事からコツコツと努力していると、時折、霊感のようなインスピレーションが湧いてきたりする。
だが、そんな地道な努力にも落とし穴は幾つもある。
その一つが、関西人を「アホ漬け」にしている広告である。
例えば、東京では、JRの電車に乗るプリペイドカードは、「SUICA」である。
関西では、「ICOKA」となる。で、広告は、「イコカで行こか!」である。
そんなバカな! と、思われるかもしれんが本当なのだ。
しかし、センスのかけらもない、ただのダジャレだと思う人は早計である。
それは、じつに緻密に練られた、「人類皆アホ化計画」の戦略なのだ。
前にも書いたが、「チカンは、あかん」というのも、実にわかりやすい「広告マーケティング」である。
「あっ、そうか!」と、深く考えることもなく受け入れて納得してしまう。
それは、広告としては、正解である。人々に伝えたいものが、ストレートに伝わるからだ。
だが……、そのせいで、人は物事を深く考えなくなる。その広告の背後に、恐るべき陰謀があったら、どないすんねん! と、思ってしまう。
雰囲気だけで、選挙に投票してしまうのも、ダジャレ広告による、脳のマヒ化のせいだとしたら。
いつか、自分たちの生活を脅かすことになるのでは……。憲法九条改悪とか……。
最後に幸福屋から一言。
ところで、日本の道路標識は、関西でも、広告とは違って非常にわかりにくい。わざと地元の人間にしかわからないようにしてあるのでは? と、疑ってしまう。
「○○に行きたいんなら、こっちや!」的な標識はないものか?