今週の言葉 – 04

良いことは、両手でやりなさい
先日、久しぶりに広告代理店時代の友人にあった。
ひとしきり昔話に花が咲いて、今、世の中に流れているさまざまな情報の話題になった。
○○製薬の育毛剤はよく効くらしいけど肝臓への副作用が怖いとか、△△製薬の胃腸薬も効くらしいけど白血球が減少していくとか、という話を聞いた。聞いていて、よく、みんな怒らないなと不思議になった。一般の人々は、薬は「安全な物」という前提で求めている。しかし、医者に言わせると、「安全」な薬などないのだと言う。
広告代理店の人間は、表に出ない情報を一般の人たちよりは多く知っている。少なくとも、「より本当のこと」は知らされている。また、たとえ当初は知らなくても、どこからか、そんな話は漏れてくるものだ。なのに、自分たちがそんな危険な物の販売に加担していることに平気でいる。きっと、あまりにそんな話ばかりなので、マヒしていくのだと思う。
……いつからなのだろう。「世の中は、そんなきれいごとばかりでは通らないさ」と、みんながあきらめてしまったのは。
たとえば、猥せつな写真集で儲けているある出版社は、一方で本当に良い本もじっくりと長いスタンスで出しているという。また、大手の洗剤メーカーやタバコ会社は、世の中に汚染物質を垂れ流していても、反面で世界の飢えている子どもたちに食糧援助をしたり、地雷の撤去運動などに協力している。残酷な動物実験を繰り返す日本の化粧品会社は、絶滅動物の保護運動を勧めていたりする。
それは、右手で毒を撒きながら、左手で救いの手を差し伸べているのと同じである。
そして、多くの人は、「仕方ないさ、それが現実だもの」と割り切ってしまう。
けれども、ぼくは知っている。両手で良いことをしてきた人たちを。
日本のトーマス・エジソンと言われ、お茶の水博士の愛称で親しまれている、発明王がいる。藤増次郎博士、今年88歳である。今でもバリバリの現役で、地球とそこに生きるすべての生き物を救うために研究を続けている。
藤増博士は、人々が捨てるゴミから建築資源を創り出した。海水の200倍の濃度の水でも、あっという間に固めてしまう「フジベトン」の発明で、生活ゴミや産業ゴミを柱や壁材に生まれ変わらせてしまう。藤増博士に言わせれば、ゴミの山は資源の宝庫だと言う。
博士は、「戦争は資源の奪い合いから起きる。すべての国が無限の資源(ゴミが循環して永久リサイクルできる)を手にすれば、誰も争わなくなるのです」と言う。
そんな博士の発明に目をつけた所があった。
アメリカの国防総省ペンタゴンである。今から30年も前、ベトナム戦争の泥沼化で苦悩していたアメリカは、ベトナムの湿地帯対策に頭を悩ませていた。道がぬかるんで、戦車が通れないというのだ。そこで、藤増博士の「フジベトン」でドロ沼を固めてしまい、戦車を通そうという計画が持ち上がった。
ペンタゴンは、藤増博士に当時のお金で36億円(1千万ドル)ものお金を提示した。これで協力してほしいと。
しかし、博士は、「私の科学は善の科学です。人殺しのために使われる物ではない!」と、ペンタゴンの申し入れを拒否し、席を立ったのである。ぼくは、ペンタゴンの前で万歳四唱している博士の写真を見せてもらった。感動した。よくもまあ無事に帰って来れたと思う。
善の科学と悪の科学、藤増博士の発明や研究は、常にその境を明確にしている。悪には一切加担しない!強い決意が、その姿勢を支えてきた。
こんな人もいるのだ!
右手で毒を撒き、左手で人助けをするのと、どれほど違うことか。
こんな人もいるのだ!
良い事は、両手(偽りのない心)でやりたいものだ。
私たちには、先人がたくさんいる。